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どうやって先生と知り合ったんですか?
日中国交正常化したあとで、工場で日本語のセミナーが行われていたんです。本来は技術幹部のためのセミナーで、私は単なる労働者だから参加資格はないんですけど、勝手に参加して講義を受けていました。仕事が三交代制なので、夜に働いて昼間に時間ができると参加していました。私は真面目に勉強して、質問なども熱心にしていたんです。
日本語の先生は二人いて、一人は上手な日本語をしゃべる先生で、もう一人はロシア語の先生が日本語も教えていたんです。それで、私はロシア語の先生に対して「もうちょっと日本語を喋ってほしい」って文句を言ったら先生に怒られて、「講義の邪魔をする人間がいるので、追い出して下さい」と工場の担当部門に頼んだらしいんです。それから授業を受けていたら担当者がやって来て「お前はここに参加する資格はない。邪魔をするばかりだから出ていきなさい」と言われて…。 すると、それを聞いた日本語が上手な方の先生が「このクラスで彼が一番真面目に勉強している。もし彼を出て行かせるなら、ここで教える意味がないので私も一緒に出て行く!」と言ってくれたんです。それを聞いた担当者は、「分かりました」と納得してそのまま帰って行きました。
それは嬉しかったでしょうねえ。
このことがキッカケで、その先生と親しくなったんです。でも先生は、まもなく翻訳の仕事が忙しくなったと言って講師を辞めてしまいました。
それから、しばらくたったある日、製鉄所内にある大きな図書館に行ったら、その先生と久しぶりにバッタリ出会ったんです。少し話したら、先生は「最近翻訳の仕事が非常に忙しいので、もし手伝ってくれるような興味があれば、私の所に尋ねて来てください」と言って帰っていきました。
.どうしようかなと思って、私は家に帰って父親に相談してみました。すると父親は「日本語をいくら勉強しても、実際に使わないとできるとは言えない。使うチャンスがあるのならば、明日先生の所に行くべきだ」と言うんです。せっかく日本語を覚えても、仕事で使う場所が無ければ意味が無い。逆に仕事で使ってさえいれば、出来ない人でもそのうちに日本語が喋れるようになると思いました。最近それを皆「お尻と頭の関係」とよく言うんですけど…。
「お尻と頭の関係」とはいったいなんですか?
それは地位が考え方を決めるか、それとも考え方が地位を決めるかということです。私は考え方が地位を決めると思います。
ああ、なるほど。
それで、父親の勧めもあって、次の日にさっそく先生の所を訪ねたんです。すると先生はびっくりした顔で「実は図書館で会った時は軽い気持ちで言ってみただけで、まさか本当にまじめに考えて来るとは思わなかった」と言うんです。
でも私は「本当に先生を手伝う必要があるのなら、やらせてください。勤務は三交代で時間がありますから」とお願いしたんです。
先生は「じゃあ、分かりました」と言って、「これを翻訳してきなさい」と紙を一枚出して渡された。それを持ち帰ったんですが、自分には難しすぎて訳せそうにないんですよ。また父親に相談したら、「日本語ができる朝鮮族の先生がいるから、その人に聞けば大丈夫。その場しのぎでもいいから、なんとかして翻訳しなさい」と言われました。それで、その先生に教わりながら、頑張って翻訳して納品しました。
そうしたら、先生は「本当に翻訳してくれるとは思わなかった。じゃあ、今度はこれを来週までにやりなさい」と、新しい紙をポンと出してきた。それは最初のよりも難しい、製鉄の高炉の資料でした。そして、先生は私を工場の高炉に連れて行ってくれて高炉の基本知識を教えてくれました。つまり、高炉のどこにコークスと鉄鉱石を入れてとか、ここで溶けた鉄が下にワーっと落ちていくとか、その工程を一緒に見学して説明してくれたんです。
そうやって、現場を見てから翻訳をすると、流れが分かっているから、知らない専門用語が出て来てもなんとか訳せるんですね。
これは、その後通訳として働くようになってからも同じです。現場の工場を予め見ておけば、単語がわからなくてもちゃんと意味が通るように説明できるものなんですよ。
それで、この高炉の資料も翻訳して先生に出すことができました。
それ以後、工場で働きながら翻訳の仕事をするようになったんですね。
そうです。4年間にわたって翻訳の仕事をしたんですが、その間に約40万字分の日本語の資料を中国語に翻訳しました。連続鋳造についての本なんかも翻訳したんです。
連続鋳造といえば、安川電機の技術が中国で使われている…。
そうです、その連続鋳造についての本です。
そうなんですか!私は安川電機に勤務していたのですが、中国の宝山製鉄所の連続鋳造設備に安川電機の技術が導入されているんですよ。技術者もたくさん現地に行っていました。彼等に連続鋳造の資料を翻訳した人が、私の知人の張さんだと言ったら、びっくりするんじゃないかな。本当にすごいですね。
日本との出会い(1/2) 政府で日本語の通訳